のんちゃんのポシェット

のんちゃんにはお気に入りのポシェットがあります。

赤いスカートはいて

黄いろいながぐつはいて

髪をあたまのてっぺんで、ちょんとひとくくり

赤い糸の刺繍のある茶いろいポシェット肩にかけて

これがのんちゃんのお出かけスタイルです。

さて、のんちゃんのポシェットには秘密があります。

ちょっと甘いものがほしいとき

でてこいでてこい、あめちゃんちゃん

ポシェットから出した手には、ほらあめだまが握られています。

ともだちと遊んでいて雨が降れば

でてこいでてこい、大きな傘!

10人ぐらい入れる大きな傘だって出てきます。

そう、なんでも出てくる不思議のポシェットです。

え、みんなの前で出せば秘密じゃない?

いいんです。それでも秘密なんです。

あるとき、ゆうすけくんが言いました。

「ねえ、のんちゃん。ゾウ出る?」

どうしましょう。ゾウなんて出したことありません。あんな大きなの出るかしら。

うーん

考えながら、のんちゃんは手を入れてみました。

でてこいでてこい、ゾウさんさん

なにかつかめました。

でもひっぱり出せません。

「おかしいなあ」

のんちゃんはもう一度、うーんとひっぱります。

どうしても出ません。

のんちゃんはポシェットに両手を入れて広げ、頭をつっこんで見てみました。

ほんとにゾウさんいるかしら

そのとたん!

きゃあっ、とのんちゃんは悲鳴をあげました。

のんちゃんはポシェットの中に、頭から落っこちてしまったのです。

すごい勢いで風がのんちゃんにあたります。

青い空の中を、黄いろいながぐつがのんちゃんを追いかけて落ちてきます。

のんちゃんは怖くて怖くて泣きたいのに、顔じゅうがこわばって泣けません。

空にはゾウのようなカタチの雲が、むーんと風に吹かれて鼻を伸ばしていました。

どん! と地面におっこちたと思ったら――

  

のんちゃんはしりもちをついて泣いていました。

ゆうすけくんが心配そうに、

「のんちゃん、ゾウ、おっきすぎて出なかった?」

と聞きました。

のんちゃんは泣きながらポシェットをひっくり返してみました。

ポシェットは底が抜けて穴があいていました。

「かして」

ゆうすけくんはのんちゃんのポシェットを手にとって、頭上にかかげ、自分でものぞいてみました。

「あ、ゾウさん!」

ゆうすけくんがさけびました。のんちゃんもポシェットをもってバンザイし、底の穴をのぞいてみました。

「ほんと、ゾウさんだ」

ゾウのカタチの雲は、今度は笑ってるようにみえました。

のんちゃんはポシェットを、そのまま、すぽん、と首にかぶってしまいました。

赤いスカートはいて

黄いろいながぐつはいて

髪をあたまのてっぺんで、ちょんとひとくくり

茶色いポシェットを、すぽん、と首にかぶると――

ステキなものが見えるのです。

ゾウの雲、キリンの雲

雨粒の宝石

木の葉のドレス

のんちゃんにはお気に入りの(穴のあいた)ポシェットがあります。

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