大越紀伊守出入の事

されば其頃田村家中に、大越紀伊守とて田村一門、扨相馬義胤へも親類にて、家に従ひ大身なり。彼人相馬へ心を合せ、田村を義胤に取せんとす。其外田村家中に相馬よりの浪人ども、少々城を持ける程の歴々の者ども四五人有て、其衆は何れも相馬方なり。田村に一番の大身は、梅雪の家督田村右衛門頭とて、小野と云処の城主なり。彼人紀伊守へ引合相馬へかたむく。有とき月斎・刑部、白石若狭に語けるは、大越紀伊守伊達へ逆心歴然なれば生捕度しと申し、其旨若狭米沢へ申けれは、政宗成実処へ
「宣ひ度子細の候、慥かなる者一人上せよ」とある。是に何て遠藤駿河と申せし者差上けるに、月斎・刑部右の品々申けるを、無益とはの宣けれども、若しや不図相抱らるれは田村の悪事なり、縦ひは月斎方募り候とも能には非らず、其子細いかにといふに、田村四人の内二人は伊達方、残る二人へ大越加はり三人相馬にて、内証二つに分れ野心を差しはさみ、相互に睨まへ、役者ども用心持になす程ならば、米沢より手遠なりとも、田村へ抱ひ安す、惣じて田村をば敵味方共に、右の二頭を引立可持給、去る程に紀伊守事は、御辺伊達へ指南といふ折節なれば、田村にてむさと交り怪我なきやうにと、紀伊守方へ潜かに知せよと宣ふ。故に成実郎等の内ケ崎右馬頭に、紀伊守兼て懇故、成実処へ用処の砌りは、いつも大越備前と云親類披官を右馬頭処へ遣はす、是に依て今度も御辺申度こと候、備前を遣はし給へと申しければ、則備前参る。成実出会、政宗の玉ふことを語らんとは思へども、先田村のこと委敷尋ね、底意なく打解給はゞ語らんと思ひ、色々承れども、何ごとも包んで之を語らず。去程に直ちに申すは延慮にて、其旨右馬頭に語らせければ、備前帰りて紀伊守に言聞せ、夫より三春へ出仕を相止、大越の居城に引込けり。尓る処に田村四人の家老より紀伊守方へ、いかなれば出仕を止られ候や承り侯はんとて、使をしきなみけるに、始は兎や角申けれども、しきりに子細を尋られ、
「三春へ由仕をし侯らはゞ、生捕れんと成実知せに依て如是」
と申なり。是に付て田村四人の家老より、此こと如何に候やと成実処へ申す。
「何ことを知せ侯べき、惣じて御家区々なれば笑止に存じ、いかにも安穏をこそ願ひけるに、か様の理はり迷惑なり」
と申しければ、四人の家老又紀伊守処へ、成実は如此宣ふ急ぎ出仕あれと申す。其とき内ケ崎右馬頭にて知せ給ふこと必定なりといへども、重ねて又四人よりその段申し来る故、右馬頭に其旨尋ね承れば、紀州別してねんごろ故、備前に申けるは、世間にて紀伊守殿をば逆心の様に唱ふ、若や其御心にて三春へ出仕ならば、自然に生害か扨ては召籠られ給ふべし、事危しと自分の物語にして申すなり、成実申さるゝことを争か申し候らはん、備前承り相違なり、と右馬頭申すの由、田村へ云つかはしければ、四人衆
「さらば右馬頭と備前を出し、対決せば如何有らん」
と申す。是非なくして三月初めに日限を定め、田村の内鬼生田と云処へ、備前を出しけると申すに付て、三春より検使は何如にと尋ねければ、左は候らはずと申す。是に依て右馬頭をば出さずして、田村へ使者を遣はし、右馬頭を出すべしとは申しけれども、検使なき故遠慮の旨なり。重ねては備前に検使を差添へ玉ひ、其とき右馬頭をも出さんと申ければ、成実家中の出入へ、検使は憚りを存し斟酌にて備前計りを出しけるに、右の理り悦びなりとて、検使一人備前に差添へ、右の鬼生田へ双方共に出向ふ。かゝりけるに、大越備前、右馬頭に
「其方にて成実よりの御知せ実正なり」
と申す。夫にて右馬頭
「紀伊守殿御心相違ならば、御出仕は如何あるべしと、私の物語にこそ申しけれ、尓るに出仕を止められ侯は、只御二心歴然なり、左もなく候らはゞ、只今にも出仕し玉ひ、三春に於てもよも御違乱は有まじき」
由、互ひにあらそへ陳報までにて、善悪の差別もなくまかりかへる。清顕死去し玉ふ以来、惣じて田村の家如此むすぼほれけるに、成実直語り今亦如何様のゲングウならば、且は政宗ため且は成実も面目を失ふ処なり。其後田村に於て各寄合、伊達を守るべきか扨如何せん、と評定の処へ、常盤伊賀と云けん者、
「清顕御残命のときより、田村をば末には政宗公へゆづり玉ふべしと、常々の御出語なるを、今又引替何方へ定め玉ふべきや、尓りと雖名分別次第なり」
と初口を出しける程に、寄合の者ども兎角を云ひかね、伊賀申す処理りなりとて、先伊達へとは同じけれども、底意は大略相馬へかたぶく。其子細は右に申す、田村に居ける浪人表立ける者どもは大方相馬衆にて、何方にても浪人傍輩とて懇ろなるものなれば、相馬衆に限らず或は佐竹・会津・仙道の浪人も、皆懇にて、それへ又梅雪・右衛門心を合せける故に、右の数条六ケ敷なり、其品々此の四巻目に委しく記す。如此穿鑿にも梅雪・右衛門は、紀伊守と一味なれども、今度月斎・刑部に加はりけるも、伊達への公儀辺にて、成実方へも申遣はし候事

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