佐沼なで切り

「つくづく見事な水城だの」
夏空の下、朝日を浴びてきらめく見渡す限りの湖沼の中に、島のようにいくつかの山が浮いている。
その中の一つ、迫川を背にした小高い山が佐沼の城だ。山を巻くように川が蛇行し、深く底をえぐって堀となるのが城の東の搦め手。大手は平地に続くが堀をほり、逆茂木打って堅固な構え。西はと見れば出丸をはさんで大河のごとき大沼に、蓮やアサザが咲き乱れ、極楽浄土の池もかくやと思う美しさだ。
西の丸に対向する砂子山に置かれた伊達政宗の本陣から自分の陣へもどるさ、佐沼城を見て、原田左馬助はつぶやいた。
沼に浮かぶいくつもの緑の島の中で、木を切払われ、櫓や屋敷にいくつもの旗を立てた佐沼の城はひとしお目立って見えた。
豊臣秀吉の奥羽仕置に反発して起こった一揆、城に籠るのは秀吉に改易された大崎・葛西の旧臣たち、ひとかどの将たちである。昨冬、新しい領主となった木村吉清を追い出し、政宗と蒲生氏郷の征討を受けたが、一部の将は未だ屈せず宮崎・佐沼などいくつかの城を拠点に頑として大崎義隆・葛西晴信の旧領回復を要求していた。
今年になって、木村吉清に代わり大崎・葛西を秀吉から賜った伊達政宗は、再度一揆の征討にのりだした。
宮崎城をなで斬りにし、佐沼城を取り囲んだのは、一昨日のことである。いろとりどり華やかな旗と母衣の群れと、漆黒でそろえた具足。文字通り、十重二十重に城を囲む大軍で、鯨波をあげ、弓鉄砲を打ちかけたが、城方はそれに応えて鬨の声をあげ、少しも動じるところがない。ためしに、と舟で近づいた者は鉄砲を浴びて、逃げ戻った。
今朝の軍議で、政宗は?ついに総攻めを命じた。
「馬が沼に足を取られる。落とすのは骨だ」
左馬助とともに坂をおりながら、後藤孫兵衛は云った。留守政景と孫兵衛は、このまま囲むだけでよい、と軍議で主張した。
「孫子にいわく、十なれば即ちこれを囲み、五なれば即ちこれを攻む。宮崎を落した今、佐沼に後詰があろうはずもなし。取り囲んで兵糧攻めにすればよかろう」
実際、昨冬は自らの古川城を奪われた木村吉清父子が佐沼に籠ったのだが、一揆勢に補給の道をたたれ、すでに飢え死にするとことを政宗と氏郷が駆けつけて救出したのだ。
泥田やぬかるみは馬の苦手とするところで、佐沼のような水城を攻めるむずかしさはそこだ。けれども豊富な軍勢にもの言わせて厳重に囲んでしまえば城の通路を断つのは逆にたやすい。そもそも籠城戦とは、後詰があってのもの。援勢を期待できぬのにするものではない。囲む側としてはただただ補給を断ち、あとは落ちる熟柿を黙って受ければそれでよいのだ。
左馬助は孫兵衛の懸念を一笑した。
「これだけの水城。ひともみというわけにはゆかぬだろうが、仕寄をつくって押してゆくほかあるまい」
大手を攻める一手を申しつけられた左馬助は上機嫌だった。
さもあろう。宮崎では搦め手の担当であったのを、政宗に懇願して大手に変更となったあげく、自らが追い散らした敵を搦め手の中島伊勢が討ち取って首を献上したことで争論をした左馬助である。
今回の佐沼では、伊達成実とともに大手の大将を申しつけられたのは、政宗ほかの諸将たちがそんな左馬助の負けん気に辟易したせいもあろう。
町曲輪への一手を申しつけられた孫兵衛は、左馬助の肩をぽんと叩いた。
「大手は沼に足をとられるぞ。せいぜい鉛玉に当たらぬようにな」
左馬助は肩をすくめて笑うと、坂を駆け下りていった。


力押しに城を攻めた伊達勢は、孫兵衛の懸念どおり、手痛い目に合うことになった。
数でははるかに勝る伊達勢だが、水堀や沼のため城への通路は限られる。あたらせっ
かくの大軍をもてあまし、敵を包み討つことができない。
浅いと判断したところに足を踏み入れても、しばらく行けばずぶずぶと沈む。
地の利を知った城方の突出のたびに大勢が討たれ、沼を泳ぎ渡って堀の土塁に取りつ
いたものは鉄砲に打たれて転落した。
がん、と引鉦が鳴った。
「引け、あがれ」
と伊達成実が采配を振っている。
「五郎さま」
左馬助は成実に駆け寄った。引くのですか、と眉を吊り上げる。何度目かの突出を終
えた城方が、やはり引き上げてゆくのが見え、左馬助は肩を怒らせてそれを指した。
「あれ、あそこが浅瀬でござる。同じ道を突けば虎口に突入できる」
そのまま行けば、道を狙い打たれるが、今ならば引き上げる城方に交じり追い抜き、
城方が味方討ちを逡巡している間に駆け抜けられる――。
左馬助の主張に、成実はちらりとその浅瀬を見た。
「ならん、手が足りぬ」
「しかし――」
反論しようとした左馬助を、成実が笑った。
「味方討ちにされたいのか」
左馬助は一瞬眉を寄せて考えたあと、大きく目を見開いた。後方にいた弓隊が前へ出て、沼の岸に展開してゆく。弓の射程は鉄砲よりも長い。
「左馬助、弓の指揮を頼む」
「承知!」
左馬助がうなづくと、成実は
「手の空いている者は黒鍬を手伝え。杭を打て、舟をつなげ――」
人手と物量にものいわせて、沼に足場を作っていった。
一方、町曲輪の方はまだ浅瀬が多い。鉄砲を放ちつつ、竹束を仕立ててじりじりと軍を堀際へ寄せてゆく。
城方から鉄砲の斉射があった。竹束が着弾を弾く。跳弾が孫兵衛の兜の庇をかすめた。何人かが倒れたが隊形を崩させまいと叱咤する。
「倒れたものに構うな、崩れると狙い打たれるぞ。逃ぐれば死、進めば手柄だ。喚け、ものども」
また、城中からの鉄砲。
倒れたものを介抱しようと竹束から手を離したもの、怖気ついて集団から遅れたものが打ち倒される。
孫兵衛は舌打ちした。
(――死兵だな)
籠城戦を選んだくせに、城方は弾薬を惜しむ気配がない。はなから生き残る気がないのだ。
こういう戦は寄せ手の損耗が激しい。だから兵糧攻めを、と云ったのだ。同じ意見を云った留守政景がすぐに退いたので、孫兵衛はそれ以上云えなくなった。が、同じように思った者が他にも居たことは場の空気から読み取れた。
それでも夕方に至って、町曲輪への寄せ手は、馬出しへ突入することに成功した。逆茂木を引き切った一隊が塀を破ったのをきっかけに、孫兵衛たちも馬出しになだれ込み、中から鉄砲を放っていた勢を攻めつけた。城中からは、生者必滅の旗を押したてた一隊が虎口から槍を押したてて飛び出し、乱戦になった。中にも一際目立つ蜻蛉の前立てに黒糸縅の武者が一騎、槍を奮って周りの兵をなぎ倒してゆく。
手柄を求めたか、孫兵衛の臣が一人、槍を手に騎馬武者へ向かった。
「新六、――ゆくな」
止めた声は届かない。
「よき武者死なすな、皆でつつめ」
こちらは徒歩、あちらは騎馬。一対一では討たれにゆくようなものだ。手勢を指揮し、騎馬武者を包囲にかかる。
黒糸縅の武者がこちらを一瞥した。新六を一突きに葬ると、采配を振って鉦を鳴らさせ、自らしんがりして虎口へ引いて行った。
日が暮れ、伊達勢は馬出し一芝居を奪って陣をおさめた。
夜の間に政宗は、水練の達者に浅瀬を探させ、目印を立てさせた。
大沼には舟橋が城に迫り、諸軍は浅瀬と舟橋に馬を乗りいれて押し渡った。町曲輪、西の丸、大手、いっせいの攻撃である。
何度か城方が突出してきたが、芝居を持ち兼ね本丸へ退いてゆく。各曲輪を維持するのをあきらめたのだろう。乏しくなった人数を本丸に集中させ、また激しく鉄砲を浴びせてくる。深く掘られた本丸の水堀にかかった橋を上げ、詰めの門を堅くとざして未だに士気を保っていた。
砂子山の本陣から、夜攻めに、という下知が伝えられ大松明が届いた。法螺の音が響く中、一つ、また一つと夕暮れの中に松明が灯ってゆく。夜攻めの支度の間、わずかな休息が訪れた。
消耗の激しかった孫兵衛の勢は、後方へ回るよう指示されていた。孫兵衛は手勢の数を数えた。昨日今日の戦で、思った以上に手負い討ち死にが出ていた。
(一晩、城は持つまい)
孫兵衛は詰めの門を松明越しに見つめた。手柄は人並み、損害のみ大きく終わるのか。
草鞋と帯を締め直した孫兵衛は
「夜目のきくもの、何名かついて参れ」
そっと円居を抜け出した。


か細い二日月はとうに沈んだ。
煌々と燃える松明は、却って闇を深くするのを、孫兵衛は知っている。その闇をぬって小舟すべらせ、堀をわたった。息をひそめて石壁にとりつき、詰めの門を目指す。
攻め鼓が鳴った。松明をかかげ、鬨の声をあげて味方が動きだした。塀の裏で、城方が走りさる音がする。わっと相戦う激しい音が聞こえた。城方が橋を下し、門を開けて突出したらしい。
孫兵衛は機を逃さず、縄を投げた。そのとき――
「今来たのか」
聞きなれた声が頭上から降った。原田左馬助が数人の手勢とともに先に登っていた。
「……大手の大将がなぜ此処に」
先を越された孫兵衛は憮然とつぶやきながら、本丸の中に降りた。
「門柱を登った。なに、意外と気づかれぬものさ」
こともなげに左馬助が笑った。が、大将が抜け駆けをしてどうする、と孫兵衛は云いたいのだ。
このまま隠れて敵が戻り、門を閉ざすのを待つ。戻って門を閉ざせば気が抜ける、そこを狙って、内側から門をあける。ひそ、と打合せ、鴉のように黒い伊達の軍装は闇の中にとけこんだ。
がん、がん、と鉦が鳴る。
また伊達勢の攻撃をしのいだ城方が、中へ戻ってきた。騎馬武者の割合がやけに多いのは、小者たちが討たれたせいか。しんがりの武者が中に入ると同時に門が閉められた。
かれらが駒をとめ、馬から降りるのを待って、左馬助と孫兵衛はそっと門に向かった。その距離、三丁。
半ばまで進んだとき、しんがりの武者が、左馬助と孫兵衛を見咎めた。あの黒糸縅の武者だ。
「走れ!」
目が合った孫兵衛が叫んだのと、武者の指揮で鉄砲が放たれたのが同時だった。目の下と股に熱い痛みが走った。二人ほど倒れたが、残りは左馬助の指揮で門へと走る。
二射目は間に合わないと判断したか、抜刀した黒糸縅の武者に、よろめきながらも孫兵衛は組ついた。走る左馬助たちに気がとられていた武者を押し倒し、馬乗りになりながら
「後藤孫兵衛だ」
と名乗りをあげた。鉛玉を受けた足は十分力が入らない。立ったままの組討ちをするわけにはいかなかった。
「山上内膳」
名乗るや内膳は、刀を放して拳で孫兵衛の胸を強かに突いた。げふ、と息が詰り、ふんばりのきかない足があえなく崩れる。
今度は逆に内膳が孫兵衛の上になる。
内膳の肩の向こうに、他の武者たちに追われながらも、閂を切り落として門を開く左馬助たちが見えた。
瞬間、喚声があがり、孫兵衛を押さえつけていた内膳の手が一瞬ゆるんだ。弓手でその手を払いのけた孫兵衛は、機を逃さず馬手差で内膳の喉を貫いた。
ぜい、ぜい、と孫兵衛は息をついだ。汗をかいているのに、ひどく身体が冷たく感じる。開いた門から駆け戻った小臣が、孫兵衛の肩を担ぎあげた。鉄砲傷を受けた方の足は全く役にたたず、袴が血でしとどに濡れているのがわかった。
開いた門からなだれこんだ伊達勢が、孫兵衛と左馬助を追うていた城方を蹴散らし、城の中へ入ってゆく。
「兜首を取ろうと思うな、百姓小者・足弱とて容赦するな。城中ことごとくなで斬りにせよ」
門の際の石垣に登り、刀をかざして左馬助は怒鳴った。
城中には侍だけでなく、近所の百姓たちが大勢いたらしく、てんでに逃げ惑う百姓とも小者とも取れるものがつぎつぎと切り捨てられてゆく。さして広くはない佐沼の城は、斬られたものの身体が積み重なり、死骸の上を踏んで歩くありさまになった。
落城は、明け方だった。生きている者がいなくなったあと、伊達勢は死体の鼻をひとつひとつ削いで塩漬けにし、樽に詰めて上方に送った。


小臣に担がれて城を出た孫兵衛は、陣所で具足と鎧下着を脱ぎ、下帯に帷子を羽織って傷の手当てをしていた。股の出血は本丸を出てすぐにしばりあげた甲斐あって、ほぼ止まっていた。
「頬の傷は残りますな」
身体を拭きあげたてぬぐいを絞りながら、孫兵衛を助けた小臣が云った。
「そちのおかげで助かった。名誉の傷になろうよ」
刀を取らす、と差し出すと、嬉しそうに受け取ってかしこまった。
「孫兵衛、見舞いに来たぞ」
明るい声がして、左馬助が陣幕の中に入ってきた。
いつものごとく、酒を差し出すと、どかりと孫兵衛の横に座り、
「いっそう男ぶりがあがったな」
と、まだぱっくりと肉の裂けた孫兵衛の頬の傷を撫でた。
「……死にぞこなった」
軽く顔をしかめて孫兵衛は笑った。太股に巻いた包帯は未だに血がにじむ。股への被
弾は大出血を起こす。宮崎で討ち死にした浜田景隆と、ほんのわずかな運の違いが生死を分けた。
「……左馬」
「なんだ」
股からえぐりだした鉛玉を興味深げにもてあそんでいた左馬助が、顔をあげる。
「俺は、解せぬ」
孫兵衛は軍議からの疑問を口にした。
「宮崎のなで切りはよい。なぜ佐沼もなのだ。きゃつらの抵抗も解せぬ。お屋形さまの強行も解せぬ」
左馬助がしばし孫兵衛の目を見つめた。
「宮崎で城に火をかけたは、わぬしだろう」
城方は降ると云うておったのにな、と笑う。
「あれは、城中の失火だ」
孫兵衛が表情を変えずに云うと、左馬助が言葉を云わずにまた笑った。
宮崎ではこらえかねた城方が、伊達成実を頼って降伏を申し入れてきた。にべもなく却下した政宗だったが、宮崎に時間をかけるのは得策ではない、という成実の意見に降伏を受け入れた。その矢先に火が出たのだ。城中の混乱に乗じて伊達勢が押し入り、なで切りを行った。
宮崎は政宗が上方から戻っての、一揆制圧の初戦。なで切りの効果は確かにあった。宮崎から登米に至る大崎の城の多くが自落した。佐沼などごく一部の城を除いて。
残った城に籠るのは奥州仕置の前から、政宗の介入に反対していた大崎義隆の忠臣たちであった。
「大崎どのは昨年の一揆のあと与えられた三分の一の身上も召上げられ、改めてお取りつぶしとなった。降らぬというならば、きゃつらの身の拠り所はもはや此世にはあるまい。あわれよな、きゃつらの忠心が結局主の身上を断つことになった」
左馬助の手が太股の包帯の上をいたずらに這う。
「おれの今度の手柄は、孫兵衛あればこそ、だ」
「左馬」
孫兵衛は眉を寄せた。小臣たちが気をきかせたつもりか、一礼して幕の外へ出てゆく。
太股に手をやったままそれを確認した左馬助は、声を落とした。
「伊達・長井・刈田召上げの話が出ている」
「……なんだと」
孫兵衛は耳を疑った。政宗は先の上洛で侍従に昇進し、大崎・葛西を加封された。替地召上げの話は確かにあった。しかしそれは、信夫以南の五-六郡のはずだ。
だが、左馬助からは笑みが消え、姿勢を正した険しい顔が孫兵衛を見つめている。
「伊達・長井……」
孫兵衛は呻いた。すなわちそれは、左馬助や孫兵衛も含め譜代の侍のほぼ全てが本貫を失うということだ。しかも、加封といいながら実際には大きく伊達領自体の貫高が減じる。
「まだそう決したわけではない。……が、」
「覆すには、手柄がいるということか」
「手柄ではない。要るのは証だ。われらが一揆勢と通じておらぬ、という」
宮崎のなで切りのあとが、最後の機会であった。あの時降らなかったものは殲滅するのみなのだ。時間のかかる兵糧攻めはせず、降伏を受け入れ伊達の臣に迎えることもしない。云いながら左馬助は酒を汲み、椀を孫兵衛に差し出した。
孫兵衛は受け取った椀を睨んで奥歯を噛んだ。椀の酒が揺れた。否、揺れているのは己れの手だ。手が震えているのだ。
――うおぉっ、
椀を叩きつけ、立ち上がろうとして孫兵衛はよろめいた。負傷による貧血だ。帷子が肩から滑り落ち、支えを求めて手をさまよわせた孫兵衛の身体を左馬助が抱き留めた。
「つまるところわれらと大崎の差は、紙一重あるなしなんだ」
耳元に左馬助の声を聴きながら、孫兵衛は元の座に座った。ふぅー、と大きく息を何回か吐くと、暗くなった視野に色が戻ってきた。眉を寄せ目を細めて左馬助を見ると、少し困ったような顔をしていた。
「孫兵衛だから云うたのだ。御親類衆と評定衆以外はまだ知らない」
ことが広まれば、逃散するものや、我が身かわいさに上方衆に讒言するものが出てくるだろう。
政宗や左馬助に非があるわけではない。だが、孫兵衛は左馬助を睨みつけた。そうせずにはいられなかった。
「すまない。不味い酒になったな」
左馬助は立ち上がった。
「しばらく苦い酒が続きそうだけれど、せめてその甲斐のあることを愛宕に祈っているよ」
そう云って自分の陣所に戻る左馬助を、孫兵衛は唇を噛んで見送った。

その後、伊達勢は、降伏勧奨に応じて参集した葛西の旧臣達を、関白の命だとして深谷の地で一人も残らず討ち果たした。
そこまでの「努力」にも関わらず、伊達・信夫・刈田の三郡も召し上げられ、政宗は米沢から岩出山に移ることになる。
本貫召し上げの一報を、左馬助は孫兵衛の宿所で聞いた。
酒を飲みながら碁を打っていた左馬助は知らせに一瞬、息をのんだが、
「そうか」
とつぶやいたきり、いつもとおなじく賑やかにたわいもないことをしゃべるので、孫兵衛もいつもどおりに塩を肴に飲みながら、うなづいて話を聞いていた。
ただ、酒に強いはずの左馬助が、その日に限って深酒をし、碁盤の横で酔いつぶれたのだった。

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