政宗に言わせれば、優れた女性は猫のようなものだ。身体ののびやかさ、かもし出す気品、ときおりのぞかせる野生がなんともいえない。それで、初めの側室につけた通り名が「ねこ」。側室が増えたので「ねこ」を「とら」と改め、さらに「しろ」「たま」と名をつけていった。
「さすがに『みけ』とはつけておらぬぞ」
「……当たり前だ」
猫といっしょにされる女性たちが気の毒だ、と成実は言う。
「まさか北の方(愛姫)にそのような通り名をつけてはいまいな」
成実の問いに、政宗は首を横に振った。
「あれはめごいから『めご』でよいのだ。それよりも問題は『とら』だ。逃散したとあっては、おれの沽券に関わる」
「だから、猫の名を人につけるのはよしてくれ」
ほとほと呆れた態で成実が言うので、政宗は少し仕返しをしたくなった。
「人のことが言えるのか」
「は?」
「野菜の名をつけるのも大して違いはなかろう」
成実の妾の愛称を、「せり」に「すずな」という。正室・亘理氏の名が、「まつ」。それで「たけ」と「うめ」にしようとしたら、あんまりだと叱られ、草の名などがゆかしくてよかろうと言われたので、若菜の名ならば縁起もよかろうと、「せり」「すずな」と名をつけたらしい。
「そこで萩の、千草のとすればゆかしいに」
「若菜を野菜と表現するか、普通」
成実が悔しそうに言い、政宗は豪快に笑った。
「食うものだろう?」