あばたもえくぼ その3

その「とら」は山里でひっそりと暮らしていた。
才気・美貌とも並ぶものなしと、政宗の寵を受けていたが、先ごろ痘瘡にかかり、快癒はしたものの無数の痘痕が顔にも残った。それを恥じて引きこもり、行方が知れぬよう、父の宗康にも他言無用を頼み込んだ。
頭巾を深くかぶり、水を汲みに庭先の井戸へ出ると、このあたりでは珍しい馬のいななきが聞こえ、慌てて家の中に身を隠した。
馬の足音が家の前でとまり、表に声がした。
「鷹狩に参ったが、水を所望したい」
聞き違え様のない声。
「どうぞ、庭の井戸をお使いくださいませ」
震えながら言うと、礼を言いたいので顔を出せと言う。
なおもためらっていると、外から戸が開けられ、奥へ逃げるまもなく抱きしめられた。
とめどなく流れる涙を、政宗がぬぐってくれた。
「『とら』はもうおりませぬ。このような姿と成り果てて、お仕えはいたしかねまする」
「ならば名をかえて仕えればよい。痘痕面はおれも同じだ。痘痕を恥じるのは、おれへの侮辱と同じだぞ」
政宗の胸に顔をうずめていたとらは、政宗の顔を見上げた。名をかえるのは確かによい吉処になるかもしれない。でも。
「……『ぶち』……?」
思わず目を泳がせた政宗の手を、とらは思いきりつねりあげた。

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