がんばれ! 左門くん~政宗編

伏見に滞在している政宗は、左門に会って破顔した。
十にも成らぬ身の出仕はいたいけながらも、会うたびに成長が感じられて快いもの。にこりと笑う顔が近頃だんだんと美々しくなって、伊達家一同のひそかな自慢の種である。
「左門、勤めには慣れたか。みやこ暮らしで困ったことはないか?」
きょとん、と左門は首を傾げた。まだ愛らしさの残る仕草である。
「ありがとうございます。みなさまよくしていただきますし、特に困ったこととてはないのですが……」
少し言いよどんで、左門は袂を振った。
振袖の裾から、ばさばさと落ちる紙の群れ。
「登城するたびにこのありさまで、どうしたものかと悩んでおります」
手に取って見ると、それは全て恋文。侍女と思われるものから、小姓仲間らしき名、果てはとても声に出しては言えぬようなお歴々のものも混じっている。
思わず政宗は目を見張った。これは大したものだ。
親の小十郎も見目形は美々しいほうだと思うのだが、働きざかりの雰囲気は鋭すぎて敬遠されている様子。丁々発止のやりとりには小十郎は最適なのだが、そうではなく、その、なんというか、もう少し柔らかく相手の心を当方に向けて欲しいと思うことも多々ある。
綱元の実直かつ辣腕なところは豊家奉行衆の評判も上々だが、やはり奥の方の情報もほしい。
「お屋形さま、なにかよいお知恵はございませんでしょうか」
つぶらな瞳で問われた政宗は、笑みをこぼして左門を手招いた。
「……ちと、話がある」 Page Top