一 小山田筑前討死の朝……

一 小山田筑前討死の朝、不思議なる奇瑞候。宿より馬に乗り、10間ばかり出候ところ、乗りたる馬、
「時の太鼓は、はや遅き遅き」
と物を言いければ、筑前召し連れ候者を興を覚まし申し候。筑前聞きて、
「今日の軍は勝ったぞ。めでたし」
と申し候。討死して後、その馬を敵方へ取り、見知り候者候て申し候は、
「この馬はひととせ、ご祈祷のため、義隆のの岳の観音へ神馬に引きなされ候馬」
のよし申し候。義隆聞こし召し、その馬を引き寄せご覧候えば、誠に神馬に引かれ候馬のよし、ご覧覚えられ候。いずかたを回り、筑前乗りてこの軍に討死つかまつり候こと、神力の威光あらたのよし申し候。かねて聞き及び候名誉の者の覚えのよし仰せられ、黒地に白馬櫛の差物を、出羽の羽黒山へ納められ、冥加のよし申すことに候。

「成実記 目次」

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